日本発グローバルチームで変革を生み出す、ベンチャー企業インタビューシリーズ
#30名以下ベンチャー #外国人エンジニア採用
2014年の創業以来、ディープラーニングの課題である学習データの少量化を可能にする「スパースモデリング」技術の応用を強みにAI事業を展開してきた株式会社ハカルス。国内の商業利用では類を見ない先進的な取り組みで注目を集めています。同社の特異性はその技術に留まらず、京都を拠点に正社員が10名以下の段階から外国籍マネージャーを迎えるなど、積極的にグローバルチームを作ってきたことにもあります。グローバルであることを「当たり前」に、そして戦略的に成長を加速させる同社の人事担当菊本氏に、外国人採用とチームづくりについて伺いました。
最初からグローバル。
少人数スタートアップだからこそできた一歩先を行く戦略
ー御社は創業以来、グローバルチームであることを前提に外国人採用にも戦略的に取り組まれてきたとお聞きしました。どのような考えのもと、開始された取り組みだったのでしょうか?
菊本さん:弊社代表の藤原や経営陣が、大学やビジネスで海外経験があり、グローバルで通用する会社を作ることが最初から自然な方向性としてありました。その根底には、グローバルな事業展開を前提とするのであれば、会社内部もグローバル化できている方が自分たちも外に出やすく、海外のお客様からも受け入れてもらいやすいだろうという考えがあります。
取材にお応え頂いたのは、人事として国内の外国人エンジニアのみならず海外人材の発掘も担当する菊本さん
人事に加えCHO(Chief Health Officer)室で常に社員の健康を考え、自ら社内企画も数多く担当
弊社は現在、京都本社だけでなくフィリピンにも開発拠点を持ち事業を行なっています。創業から2年ほど経ったタイミングで、弊社で初となる外国籍エンジニアの採用がフィリピン出身・現地勤務となるメンバーであったことが発端です。近年は京都本社でも外国人メンバーの入社が加速していて、アメリカ、韓国、台湾、スウェーデン、中国、ドイツと出身国は多岐に渡ります。
ー多くのベンチャー企業も、海外展開をきっかけに外国人採用に関心を持ちます。一方、実際にチームを機能させることは簡単ではない中、早い段階で外国人メンバーを迎えることは御社の戦略においてポイントになっているのでしょうか?
菊本さん:そうですね。チームが大きくなってからのグローバル化こそ、全体を巻き込む英語化をはじめ大変な作業が伴うと思います。まだ小さな規模である内にグローバル対応が当たり前という状況を作ってしまう方が、今後チームを成長させる上でも戦略的であると考えています。
左より、プロダクトマネージャーのMarcelさん、CMOのAdrianさん、CTOの染田さん
実際に昨年、京都本社の5人目の正社員として、日本語を話さないドイツ出身のマネジメントメンバーを迎えました。彼はフィリピンに拠点があるアプリケーション開発チームのマネージャー(プロダクトマネージャー)を担当しています。勤務自体は京都のため、日英両言語話せることを望ましい条件とすれば、英語ができる日本人に絞る選択肢もあり得たかもしれません。しかし、あらゆる面からみて適任で、ぜひ一緒に働きたいと思うメンバーに出会うことを優先させたら、言語はネックになりませんでした。
ドイツ出身プロダクトマネージャーのMarcelさん(中央)とフィリピン現地勤務のアプリケーション開発メンバー
普段はリモート、最低でも2ヶ月に1回は現地で顔を合わせている
創業間もない頃からグローバルチームを作ってきたことの強みは、言語の制限なく、より自分たちが求める人に出会える確率が上がるということです。なお、日本語を話さない外国籍メンバーが入った時点から社内言語は英語化しました。
今では、社内言語を英語化した後に入社した社員が大半で、選考の時点から英語でのコミュニケーションが必須となることを伝えての採用活動を行うことができました。得意かは別として、英語を使う環境を楽しめる、という前提が必要となることを選考の初期段階から伝えていたので、入社後の期待値のずれやミスマッチは防ぐことができました。
ー英語化の観点では、多くの企業が既存社員への対応に課題を感じる中、御社では早期なグローバル化が功を奏しているのですね。御社にも少なからず英語化という大きな変化を経験した方もいると思うのですが、反応はどうでしたか?
菊本さん:実は私もこの英語化に苦労した1人です。
私を含め、2名の日本人メンバーが、まさに「明日から英語です」という状況を経験しました。一人一人は慣れるまでかなり苦労もありました。が、逆に言うと社内の使用言語を英語にするという大転換を経験する人数を2名に抑えられた、ということでもあると思います。
英語の環境で1年過ごした今では、英語だからこそ生まれたポジティブな変化まで感じられるようになりました。
「英語での会話が日常になると、相手を褒める言葉が社内に増え、雰囲気が明るくなったという変化に気がつきました」
英語化で生まれる課題には真摯に向き合う
ー順調に英語化、グローバル化を進めてきた印象を受けますが、外国人採用やチームづくりを進める中でぶつかった壁や、課題となったことはありませんでしたか?
菊本さん:早期に取り組んできたグローバルチームづくりとはいえ、現在でも言語の壁を乗り越える工夫や努力は間違いなく必要になっています。
具体的には、日本人メンバー内の英語力の差を埋めることです。選考の時点では日本人側に英語スキルは問わず姿勢を重視しているため、現状英語を話すことを苦手とするメンバーもいます。全体会議は英語で行うため、同じ1時間を過ごしてもその中で得た情報の量・質に差が出てしまうことがあり、これは課題であると感じています。
ーではこの情報アクセス、理解に対して生まれる格差にはどのように対応しているのですか?
菊本さん:以前は会議資料を全て英語で用意していたのですが、そこを日英併記に変えました。発言についても、必ず英語で話すことよりも発言することそのものを優先させています。英語での説明が難しい場合はとりあえず日本語で、その後翻訳できるメンバーが英語にするというようにしています。
ー外国人社員が情報アクセスの面で不利になるケースは多く耳にしますが、御社は真逆。それだけグローバルチームが前提の強い意志を感じます。
菊本さん:そうですね。グローバルチームであろうという方針自体は今後も揺るがないと思います。課題や誰かにとって「不利」になる状況が生まれてしまったら、あくまでそれを解決するという方向に動くと思います。
今後人事としては、英語学習の機会を会社として提供できる制度を作りたいと思っています。選考時点で事前に状況を伝えているとはいえ、英語が得意でないメンバーにも英語を使うことを求めているので、習得のためのサポートは何かしらしたいと考えています。
誰が決めるでもなく自然と始まった一つのテーブルを囲んでのランチの風景
1人でも海外出身メンバーがいれば英語での会話となるため、英会話ランチが恒例となっている
グローバル化以前に、互いをリスペクトできない会社はまわらないから
ーチームづくりの点においては、御社は京都本社のみならずフィリピン開発チームを含めてのグローバルチームでもあると思います。直接顔を合わせる機会が限られる中、組織としての一体感はどのように生まれているのでしょうか?
菊本さん:この3年間、朝のミーティングはずっとフィリピンと京都、合同で続けてきました。これを毎日欠かさず行った積み重ねは、チームとしての一体感を持つ意味でかなり大きかったと思います。
また、週に一度営業ミーティングがあるのですが、これは営業チームだけでなく、日本、フィリピンのエンジニアも含め全員参加で行なっています。エンジニアでかつ本社から遠隔での勤務となると、どうしても自分の業務を会社の売り上げや営業活動と結びつけて捉える機会が減ってしまいます。一人一人がビジネスを作っているという意識を持つためにも、全員が参加しています。
会社全体のことを自分事として捉え関わるということは、遠隔という状況があってこその工夫の中で生まれた姿勢でもあると思います。
ー意識して取り組んだ積み重ね、改善があってこその今なのですね。そんな御社にとって、これからのグローバルチームをより強いものにしていく要素は何だと思いますか?
菊本さん:出身や文化背景など、色々な面で異なる個人が集まる弊社だからこそ、相手を尊重することや、理解に努める姿勢が一層大切になってくると思います。
代表の藤原さん、CMOのAdrianさんが茶道を体験する一コマ。社員の心身の健康を考え菊本さんが企画したお寺での瞑想を発端に、
以来、月一回のアクティビティとして、健康・相互理解を軸にチームメンバーで新たな体験をしている。
私自身の面接で、面接官だったCTOの染田から聞いた言葉が今でも印象に残っています。
「この会社には専門性という”共通語“が違う人が多くいる。こういう場所ではお互いをリスペクトできないと会社がまわらない」
グローバル志向であったことに加え、弊社は創業間もない頃から海外出身メンバー、管理栄養士、エンジニア、子育て中のお母さん社員など出身でも職種でも様々なバックグラウンドの人がいました。あえて「ダイバーシティ」と意識してきたというよりも、ごく自然に存在してきたという方が実感に近いです。
今後、人数が増え会社が成長していくにつれ、今まであえて口にせずとも済んでいたことも、理解を促すために伝える必要のあることも出てくるかと思います。一つの例ですが、フィリピン開発チームの働き方は現地の法律に基づくため、京都勤務の社員とは違うものになってきます。同じ会社にいても違いが生まれる部分は、不公平感や疑問を生み出す可能性があります。
人事として間に入り、お互いの理解を促す作業は今後より求められることだと思いますので、そういった役割も果たしていきたいですね。
取材を終えて 〜アクティブ・コネクターより〜
菊本さんとのお話を終えたとき、こうして内側からグローバルであることを選び取る企業が、東京を経由する必要なく世界に最も近い企業となっていくのだろうと感じました。日本の組織内での「グローバル化」「英語化」というと、日本人の側が手放す、あるいは多くを譲歩する印象を抱かれることもあり、また取り組み方によってはそうなる可能性もあります。しかしハカルスさんで印象的だったのは、互いを尊重しあうベースがグローバル化への取り組みに関わらず、チームのあり方として最初から存在していたことです。こうしたベースがあってこそ、言語の壁を超える覚悟や挑戦が可能になってくるのではないでしょうか。
外国人採用の成功は、グローバルチームとしての活躍を迎えられてこそ
求められるのは単なる完全英語化ではなく、ポイントを抑えた機能する英語化です!